活ハタと椎茸 松前蒸し
2011年冬[道場旬皿]もてなす心に触れる料理
昆布の優しい旨味で楽しみ膨らむ冬の味
活きハタと椎茸の松前蒸し
ポンズ
ハタと椎茸で作り出す見栄えの下には
全ての食材の旨味を吸った豆腐。響き合う味。

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今や高級魚のハタは冬になると脂がのって旬を迎えます。丁寧に皮を引くとたっぷりとした皮下脂肪に包まれた美しい身が現れます。脂がたっぷりのっている身ですが、淡白でお刺身や鍋などによく使われます。「河豚も美味しいけど年寄りには身の弾力が強すぎるかもね。」とここでも食べる人への気遣い。そうそう、今回は「お年を召された女王と和の強者に捧げる料理」のイメージでしたね。

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「おい、あれ、ハタやったか?」と仕事の段取りを確認。[道場旬皿]は撮影のための段取りとか演出とか仕込みとかは何もありません。ただただ道場六三郎が心のままに、思いのままに料理を作る姿とその料理を記録します。しかしこれが大変。道場が厨房に入り一旦料理が始まると瞬く間に4品、5品の料理が同時に指示され、もの凄いスピードで調理されていくのにカメラがついて行くだけでも精一杯・・・となることもしばしばです。しかもそれは「いつもの料理」ではなく、そこで始めて作られる料理。宮永料理長を始め厨房の若い衆もあの手この手で道場が考えていることをつかみ取ろうと先回りを試みます。道場が書いたメモの端にちょこっと書かれた使うか使わないかわからない食材を準備したり、一瞬立ち止まり次の手を考える道場の視線の先にある器に似合った敷き皿を用意したり。

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そしてやっぱり、料理長の手元には既にハタと甘鯛がきちんと用意されていました。写真の左がハタ、右が甘鯛です。甘鯛の蒸物はもう披露したし・・・としばし動きを止めて考えを巡らせます。

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「豆腐、豆腐をだしてくれ。」少しうれしそうに「この豆腐は石川(故郷)のを仕入れているんだよ。」豆腐といえばさりげないけど、和食の代表的な食材のひとつ。柔らかさや出しゃばらない味や風味、そしてふっくらした感触。この謙虚さと柔軟さを兼ね備えた「和」の食材は、これまでも全く自由な発想で、道場のいろいろな料理に活かされてきました。白玉粉と混ぜてすっぽんの身を包んだ御椀種は絶妙な箸通りを楽しませてくれたり、料理の鉄人では豆腐にフォアグラとトリュフを混ぜたものを甘鯛で包み、蒸し上げた料理が披露されたこともあります。そういえばいつだったか「夕べ夢で見た料理を作るから」といって豆腐に卵の白身やチーズなどを混ぜて蒸して、ふっくらした不思議なデザートのようなものを作ったりしていたのを思い出しました。24時間アイデアが止まらないんでしょうかね。

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「親父さん、骨抜いておきますか?」宮永料理長も先回り。厨房ではこうした声が飛び交います。

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椎茸を手にとって、やさしく丁寧に表面の汚れを確認。厨房では当たり前のことかも知れませんが、魚の汚れや、すっぽんの小骨、アサリの砂など常に細部まで見逃さないよういつも本当に慎重にチェックしている姿が見られます。たまに大量の食材を端から少しずつ作業を進めているシーンに出くわすとこっちが気の遠くなる思いがしてしまいます。
椎茸はそのまま出汁でさっと洗って蒸し器へ。

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その間にクエに包丁が入ります。後で気がついたのですが、同じように切り出した椎茸と交互にとてもきれいに並べられるのですが、道場の頭の中には既にこの時点で「椎茸の大きさと合わせて測る」という仕事が行われていたんですね。

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蒸し上がった椎茸。出汁と椎茸のいい香りです。

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厨房からカメラマンに料理写真の進行具合を確認。料理を仕上げるタイミングを見極めます。
料理の鉄人では1時間という限られた時間の中での勝負。ここでは同じく新しいアイデアで料理を創作しつつ、時間の無駄なく撮影のペースに合わせて一つずつ次々と料理を仕上げる。そしてお客様にはお客様の心地よい時間の流れの中にタイミングよく料理をお出しする。自分のペースで料理を作るのではなく、時間を自在に操りながら料理を作っているんだなと実感させられます。

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昆布の上に豆腐。その上にクエと椎茸を交互に並べて、いわゆる鎧の見栄えを作ります。
付け合わせの菜花も添えて酒をふって蒸し器へ。

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蒸し上がると何とも言えない優しいいい香りがしてきます。松前蒸しの松前とは昆布のことです。昆布で蒸されたハタと椎茸は旨味を増し、さらにしみ出した旨味と昆布の旨味を直接豆腐が受け止める。今回の豆腐はハタと椎茸の台座となり持ち上げることで見栄えを作り出していますが、美味しさもたっぷりと味わえるうれしい豆腐になりました。

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蒸し時に出た汁にさらに差し鰹で味を整えた出汁をかけます。

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器に盛ると、慎重に位置や並びなどを微調整。

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目を細めたり、首を少し傾けたり美味しさの見栄えを追求する時間が流れていきます。

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さらに見つめる真剣な眼差し。周りのスタッフもこの姿を見守っています。

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やっと「よし!」の声。撮影のとき器のこっちが手前になるようにと指示をしながらいよいよ料理を厨房から出します。

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受け取っているのは写真家の森浩司さん。料理の盛りを崩さないように、器の縁を汚さないように。料理を手渡されるともの凄く緊張しますよ。でも厨房ではそんな森さんの緊張はよそに、既に次の料理の仕上げの段取りがどんどん進んでいます。

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