道場スピリット マネージャー・北原希代子 作
#6生産性と合理性の追求

料理人でありながら優れた経営者である道場にとつて、仕事としてのその料理は、高い生産性と合理性を追求するものでなければならない。六〇席の客席で、昼二回転、夜一回転半の場合、調理場は何人必要か、ホールの人数は。出来るだけ少ないスタッフでやる為には、高い生産性が必要になる。他の料理と比べて下ごしらえの多い日本料理において、料理の質を下げずにどこをどう削って行くか。刻み物一つにしても、どうしたら多くの食材を、短時間に綺麗に刻むことができるか、包丁の手入れに掛ってくる。よく砥がれた包丁は、早く綺麗に切れるばかりでなく仕事を楽しくする。「庖丁砥げよ!」は、道場が挨拶のように言う言葉だ。
道場は、調理道具にもこだわりを持たない。ピーラーもフードプロセッサーも合理的に綺麗にできるものは、好んで使う。桂剥きが必要なときは桂剥きをするが、桂剥きに拘らない。
先日も、「海老一匹を茹でるのに、一匹分の鍋の大きさ、湯の量、ガスの火加減がある」と弟子たちを叱っていた。それは水代、ガス代の節約だけでなく、料理の味をも左右するのだと。以前に、全国つけ麺博と言うイベントがあり、大勝軒とのコラボで十日間ほど道場の木の実ダレを提供することに成った。ピーナツやアーモンド、ピスタチオなど大量に使用する中、調理場が殻付きのピスタチオを仕入れてしまった。乾燥しているとは云え、ピスタチオの殻を剥くのは大変な作業で、何人もの人手が必要だった。剥いた物よりも殻付きの方が安いのは分かりきっているが「その為に一番高い人件費にお金をかけてどうするのか」と道場はあきれ顔だった。原価計算ばかりに拘ると、こうした人件費の落とし穴に落ちてしまう。
只ただ流されて仕事をするのではなく、全員が意識を持って働くことこそ、もっとも合理的で、高い生産性を生む秘訣なのだと、道場は言いたかったに違いない。

 

全国つけ麺博
平成二十二年九月 大勝軒とのコラボ
道場の木の実ダレつけ麺

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